中小企業診断士 過去問
令和5年度(2023年)
問160 (経営法務 問25)

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問題

中小企業診断士試験 令和5年度(2023年) 問160(経営法務 問25) (訂正依頼・報告はこちら)

相殺に関する記述として、最も適切なものはどれか。なお、別段の意思表示はないものとする。
  • 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え前から有していた差押債務者に対する債権を自働債権とする相殺をもって差押債権者に対抗することができない。
  • 相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。
  • 不法行為から生じた債権を自働債権として相殺することはできない。
  • 弁済期が到来していない債権の債務者は、その債権を受働債権として相殺することができない。

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この過去問の解説 (3件)

01

正解は、「相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。」です。

 

【基礎知識】

相殺の問題です。2018年の民法改正の内容が問われています。

 

相殺とは、債権、債務を双方が持ち合っている場合にいわゆる“帳消し”にすることです。

要件は以下の通りです。これらの要件を満たすことを相殺適状と言います。

 

①    2人の者がお互いに同種の目的の債務を負担していること

②    自働債権の債務の弁済期が到来していること

③    債務の性質が相殺を許すものであること

④    当事者間に相殺禁止特約がないこと

⑤    不法行為による債権を受働債権とするものでないこと

 

ここで相殺において意思表示を行う側の債権を自働債権、される側の債権を受働債権と言います。

 

〇相殺関連の2018年民法改正

 

1.相殺禁止の意思表示

 当事者が相殺に反対の意思表示を行うと相殺できません(相殺の実施に同意は不要です)が、旧法では知らずに債権を引き受けた善意の第三者などには対抗できませんでした。ただ、なんでも善意であれば対抗できないということでは不合理なケースもありました。よって誰でも知っているようなことを知らないという場合は保護しない、善意の無重過失を要求する内容に変更されました。

 

2.不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止

 基本的に不法行為等で生じた債権については相殺できませんでした。例えば借金を返さないからといって債権者が自動車で債務者を引くような不法行為から保護するためです。これまでは不法行為すべてについて相殺を認めていませんでしたが、善意の事故などもあることから、改正で以下の要件に変更されました。

①    悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務

②    人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務

つまり、悪意かつ生命、身体の侵害という条件が付いています。

 

3.差押え後に取得した差押え前に生じた原因による債権との相殺許容

差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができます。

選択肢1. 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え前から有していた差押債務者に対する債権を自働債権とする相殺をもって差押債権者に対抗することができない。

誤り。改正内容の3になります。差押え前に生じた原因による債権との相殺は可能です。

選択肢2. 相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。

正しい。相殺の遡及効といいます。効力は相殺適状になった時期に遡ります。

選択肢3. 不法行為から生じた債権を自働債権として相殺することはできない。

誤り。不法行為から生じた債権を受働債権として相殺することが禁止されています。

選択肢4. 弁済期が到来していない債権の債務者は、その債権を受働債権として相殺することができない。

誤り。受働債権の債務は期間の利益を放棄することで相殺することができます。自働債権はできません。

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02

相殺に関する問題です。

選択肢1. 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え前から有していた差押債務者に対する債権を自働債権とする相殺をもって差押債権者に対抗することができない。

差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え前から有していた差押債務者に対する債権を自働債権とする相殺をもって差押債権者に対抗することができます

選択肢2. 相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。

正解の選択肢となります。

選択肢3. 不法行為から生じた債権を自働債権として相殺することはできない。

不法行為から生じた債権を自働債権として相殺することはできます

 

本選択肢は、よく引っ掛け問題として出題されます。

「不法行為」とあるため相殺することができないというイメージを持ってしまいがちですが、不法行為から生じた債権を受働債権として相殺することはできないものの、自働債権として相殺することはできます。

選択肢4. 弁済期が到来していない債権の債務者は、その債権を受働債権として相殺することができない。

弁済期が到来していない債権の債務者は、自働債権の弁済期が到来していれば、その債権を受働債権として相殺することができます

まとめ

【補足】

本問は、不適切な選択肢の内容がややこしいですが、正解の選択肢をそのまま覚えていれば、不適切な選択肢の内容に惑わされることなく正解することができます。

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03

相殺についての問題です。

本問は用語の理解が難しいと感じる人が多いと思われます。出てくる用語について下記に解説します。

 

相殺…2人が互いに同種の債権を有している場合に、一方的な意思表示(単独行為)により、お互いの債権を対当額で消滅させる行為

(例)

AがBに100万円の商品を売っている(Aは100万円の債権を持っている)。

BはAに100万円の商品を売っている(Bは100円分の債権を持っている)。

この時BがAにお金を払えなくなった。AはBに相殺の意思表示をするとお互いの債権が消える。

 

働債権…相殺の意思表示をしたほうの債権。相殺をした自らの債権。

 

働債権…相殺の意思表示をけた債権。

 

相殺適状…相殺に適した状況。相殺ができる状況と考えるとわかりやすい。

民法の規定上、相殺するためには自働債権と受働債権双方の債権に弁済期が到来している必要があるとされています。

両方とも返す時期が来ているという解釈で良いと思われます。

ただし、銀行などからお金を借りたとき、債務者(借りた側)がお金が絶対に返せない状況になったとき、強制的に弁済期を到来させることができます(期限の利益を喪失させる)。

その時は自働債権である融資金と受働債権である債務者の預金を相殺することができます。

 

第三債務者…本来の債務者である相手方に対して債務をもつ者。

Aさんが債権者、Bさんが債務者の場合、Bさんに対して債務がある人がCさん(第三債務者)。

AさんはBさんから回収できなくても、Cさんから回収できる場合がある。

選択肢1. 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え前から有していた差押債務者に対する債権を自働債権とする相殺をもって差押債権者に対抗することができない。

不正解の選択肢です。

差押え前から有していた場合は対抗することができます。

差し押さえ後の場合は対抗することができません。

選択肢2. 相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。

正解の選択肢です。

相殺適状の時にさかのぼって効力を生じます。

選択肢3. 不法行為から生じた債権を自働債権として相殺することはできない。

不正解の選択肢です。

不正行為から生じた債権を受働債権として相殺はできません。

 

選択肢4. 弁済期が到来していない債権の債務者は、その債権を受働債権として相殺することができない。

不正解の選択肢です。

弁済期を強制的に到来させることができるため相殺は可能です。

まとめ

用語の理解が難しく、学習が大変だと思いますが、具体例などを思い浮かべながら理解していきましょう。

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